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せっかくの英語を残念なものにする「ジャパン・モード」の正体(2)日本語は打ち上げ花火型、英語は仕掛け花火型。

先日から「ジャパン・モード」のお話を始めさせて頂いております。
「ジャパン・モード」とは、日本人のコミュニケーション時のさまざまな癖です。特に、英語環境、あるいはグローバルな環境になったとたんに、コミュニケーションの大きな壁となってしまう日本人のコミュニケーションの癖。それらをまとめて「ジャパン・モード」と呼んでいます。

なぜか、この「ジャパン・モード」まわりのお話しは、これまで注目されてきませんでした。しかし私たちは、短期集中英会話のイングリッシュブートキャンプのなかで、ほぼ全員の日本人の方がこの「ジャパン・モード」に支配されており、せっかくの英語の知識が有効に機能しない残念な状態となっていることを目の当たりにしてきました。日本の「ローカル」なモードを「グローバル」に切り替えないと、いくら沢山英語の勉強をしても、実践では伝わらないことが多いのです。TOEIC900あっても喋れない人がいるのはこのせい、とも言えます。逆に、この「ジャパン・モード」を「グローバル・モード」に切り替える術を学ぶことで、皆さん一気に堂々と英語を話し始めるのも目の当たりにしてきました。

「ジャパン・モード」を知るために、まずは日本のコミュニケーションの特殊性について理解したいと思います。そこで、前回の記事ではコミュニケーションのなかでの「文脈」、いわゆる「コンテキスト」というものを見ました。日本は「高文脈」あるいは「ハイ・コンテクスト」な文化ですが、「異文化との対話」は、「低文脈」な世界です。つまり、「日本の空気やコンテキスト」を共有していない人との対話だということです。英会話においては、僕たちはその会話スタイルを「低文脈」側にシフトしていく必要があるお話をしました。

この「文脈」の件も、もっと掘り下げていきたいのですが、今回は、また、違った角度から日本のコミュニケーションの特殊性を見ていきたく思います。

それは、英語が「仕掛け花火型」に対して、日本語は「打ち上げ花火型」ということです。

打ち上げ花火は、まず、ポンッと小さな火の球が打ち上げられると、それがヒュ~ヒュ~と上空にあがっていきます。観衆は、その間、どんな種類の花火が上がっているのかわかりません。皆、どんな花火があがるのだろう、と興味を持って見つめています。そして火の玉が上空にいきつくと、バンッと大きく花火が開きます。そこで初めて「あぁ、赤と黄色の牡丹だったんだ」「赤い割玉だった」等、その花火の正体が分かるわけです。そして、その花火は速やかに消えていきます。

― 最後まで正体が分からない、と、正体がわかった瞬間に終わる。

日本語は、この形です。少し構造的なところに目を向けますと、ご存じ、日本語は動詞が最後に来ますが、そのおかげで以下の特徴を持つのです。
(1)「動詞」が最後に来るので、文章の最後まで聞かないと文意がわからない
(2)「動詞」が文章の締めとして置かれるので、どこで文章が終わったのかが明示的にわかる
ということです。

次の文章を見てください。

「昨日朝起きたら少しお腹がいたくて、微熱もあったから、どうしようかなと迷ったけど、結局、学校へ■■■■」

結局最後にくる動詞「■■■■」を聞くまで、結局学校へ「行きました」なのか「行きませんでした」なのかが分かりません。一番気になるところが最後まで分からないのです。文意が最後までわからない、ということですね。焦らしに焦らされて、ようやく花火が花開いた瞬間にその花火の正体がわかるようなものですね。

また、もう一つは、「行きました」、つまり、動詞がきたら、そこで文章が一旦終わることが明示的に示されるのです。打ち上げ花火が「バンッ」と開いたら、そこでその花火は終わり、とわかるのと似ています。

ところが英語は違います。
動詞は、多くの場合、主語の直後に来ます。
上記の文章も
I went to school yesterday, even though I had a stomach ache and a small fever that morning.
か、
I didn’t go to school yesterday, even though I had a stomach ache and a small fever that morning.
になります。

つまり、最初に「行ったか行かないか」がわかります。日本語と違い、最初に文意がわかるのです。

また、一方で、英語は「最後に動詞が来る」等、文章の終わりを明示的に示すルールがないため、どこで文章が終わるかが分かりにくいです。例えば上記の文章も、文章の最後の部分であるはずのthat morningのあとにwhich was quite rainyと付け加えることもできます。つまり、例えばWhichやthatやwhereといった関係代名詞を使うことで文章をどこまででも続けることが出来るのです。

従い、動詞が最初に来る英語では、
(1)文意は比較的すぐにわかる
(2)どこで文章が終わるか明示的でない
という特徴があります。

これは、打ち上げ花火に比べると、「仕掛け花火」のほうが近いです。
仕掛け花火は、始まった瞬間に、その規模やテイストが大体わかってしまうものが多いかと思います。
「ああ、こんな感じね」と正体の殆どを出してしまうわけですね。そして、そこから色々な仕掛けが続きます。聴衆側は、こちらとしては、いつそれが終わるか分かりません。

ここで気を付けたいのは、仕掛け花火は、「面白い仕掛けが続かない限り、聴衆を最後まで魅了し続けるが出来ない」ということです。仕掛け自体が大したことなかったり、あるいは、途中で暗くなってしまうことが数秒間があったりしたら、聴衆は「つまらない」或いは「ああ、もう終わったのね」と注意を払うのをやめてしまうかもしれません。「仕掛け花火」は最後まで聴衆を惹きつけておくためにエンターテイメント性を高めていかなければならないのです。英語もそうです。つまり、英語では、相手の注意を引き留める努力をしない限り、あるいは、こちらが話しているよという意思を明示的に見せない限り、聞き手は聞くのをやめてしまうかもしれないのです。聴衆を惹きつけるのは話し手の責任なのです。

英語のネイティブ達は「まだ話は終わっていないよ」をあの手この手で示していますが、一つ例を見てみましょう。
例えば、
He is smart, kind, and very charming.
という文章では、通常「smart」と「kind」の最後のところのイントネーションを上げ、最後のcharmingのお尻ではイントネーションを下げます。
つまり、A, B, and Cという並列の事象を言うときには、AとBのお尻のイントネーションをあげ、更にCのお尻のイントネーションを下げるという話し方をします。

もしsmartのお尻のイントネーションを上げずに、逆に下げてみたら
He is smart.
と、そこで文章が終わったと思われてしまうかもしれないのです。
従い、「まだまだ終わっていないからね。Smartなだけじゃないからね」ということを示すためにもお尻のイントネーションを上げることで聞き手にメッセージを送り、相手を惹きつける努力をするのです。そして最後のcharmingで、「はい、ここで終了ですよ」という意味も込めてイントネーションを下げます。
こういった「音」の話はプロソディーと呼ばれる分野で、これはこれで改めて見てきましょう。
いずれにせよ、「動詞で〆る」等、文末を示すお約束がない英語においては、イントネーションもフル活用することで「まだ終わっていないからね」と聞き手にメッセージを送る必要があるくらい話し手が文章が継続していることを示していかなければならないのです。

「打ち上げ花火型」の日本語は違います。打ち上げ花火は、「あ、球があがった」と分ければ、その小さな球が雲や煙の間に隠れて見えなくなっても聴衆は花火が開くまで興味を持って上空を見続けてくれます。みな、最後の花火が開くまで正体が分からないので、その途中は大した努力をしなくても皆の注意を惹き続けることが出来てしまうのが日本語なのですね。多少途中がなかだるみしても、静かになってしまう瞬間があっても、それほど努力しなくても相手は貴方の話を最後まで聞いてくれる可能性が高い、そんな言語なのです。

だから、これに慣れている多くの日本人は、英語で話している途中でも平気で無言になります。
何を言おうか考えていたり、お目当ての単語が頭のなかで見つからない場合、ん~と考え込むのですが、その際、殆どの人が黙ってしまいます。ちょっと首を傾げたり、目線を天井に向けたりして「考えているんだな」というかすかなサインは出すにしても、明示的に考えているを表現しないのです。

日本語環境なら、動詞を出さない限り「終わっていませんよ」と相手を惹きつけておけますが、英語環境では「ああ、話は終りね」と思われてしまうかもしれません。会話が終えられてしまうか、相手が喋り始めてしまうでしょう。この傾向は、イングリッシュブートキャンプでも大変顕著です。生徒さんは、無邪気なくらいなんのサインも無しで「考えモード」に突入していきます。相手は置き去りにされたような気持ちになるかもしれませんし、会話は崩壊してしまうかもしれません。僕の友達の英語のネイティブの多くもこれを指摘します。「考えているのか、話が終わったのかが分からずストレスを感じる」というのです。

どうすればいいか。
常に相手を惹きつける話し方をする必要があります。
それには色々出来ることがあります。

そのうち今日は一つだけご紹介します。
ひとつは、考えているときは、「Let me think」や「well,,,」といった「いま考えているよ」ということを明示的に声に出すことです。
声に出して「考え中ですよ」を表し、相手に「まだ終わっていないよ」「すぐに何か言うからね、そのまま待っててね」というサインを出すのです。これで相手は「まだ先があるのね」とわかり、置き去りにされた感もなく、貴方の言葉を待ってくれる可能性が飛躍的に高まるでしょう。

話し始めたら、〆の動詞がくるまで自動的に聴き続けてくれる日本語とは違うのです。
明示的に、必死に、自分の状態を相手に伝えるのです。

これもグローバル・モードの第一歩です。

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