現地にいるだけでペラペラになる。
というのが妄信だとわかった。
高校赤点6回の英語力で渡米して英会話スクールに入って猛勉強したつもりが、「Red(赤い)」という簡単な単語さえも現地のアメリカ人には通じない。
頭の柔らかい子供ならまだしも、こちとら既に20歳。勝手に脳が新たな言語を吸収してくれるラッキーな時代はとうに終わっているのだろう。
こりゃ、普通に過ごしていたら喋れるようにはなりそうもない。そんな簡単な事実に遅ればせながら気がついた。
-そんなこともわからんのか、私は相変わらずアホだ。
とタソガレている暇はない。
なんせ、渡米6週間でアメリカの本当の大学に入学する。悠長なことをいっている時間はない。
全身全霊で英語を使おうというモードになった僕は、これでもか、というくらい英語にのめりこんだ。
色々な勉強方法をトライしてみた。中には周りに迷惑をかける(!?)という意味ではご法度的なものもあった。
例えば、
「オウム返し話法」
これは、会話を楽しみながら同時に自分の英語力をあげていくという恐ろしい作戦になる。
やることは簡単。
相手から何かを質問されたときに、YESとかNOで答えずに、質問文自体をオウム返しするというものだ。
例えば、
「シャワーは浴びたか?」という質問が来る。
これをYESかNOで即レスするのではなく、
「シャワーを浴びたかって?、フッ、浴びてないよ」
という形で『シャワーを浴びる』というフレーズを何度もつかいくどくどと返答するというものだ。
何故こんなまどろっこしいことをやるかとすると、シャワーを浴びる、というのはtake a showerという表現なわけだ。
高校英語赤点6回野郎の僕がそんな気の聞いた言い回しを知っているわけではない。そして、特に身の回りのことで簡単だと思えそうなものでいえない表現は多い。
そんなものが英会話の中でバンバン飛び交うわけで、そのときに
なんだシャワーを浴びるってtake a showerなんだ。お洒落!
と気づくわけで。
聞いた限りは逃したくない。
直接メモを取りたいが、会話の勢いは失いたくはない。
というより、もうこれは「今夜覚える」等の先延ばしはせずに、この場で自分のものにしたい。
だから、
「Did you take a shower?(シャワーを浴びたか?)」
と聞かれたら、
YesとかNoで答えるのではなく、
Did you ask me if I took a shower? No, I have not taken a shower yet(シャワーを浴びたかって?、フッ、浴びてないよ)」
とtake a showerを聞いたそばから何度も使って自分のものにする。
そうなのだ。
後で改めて勉強するなんてヌルいことはやってられない。
その場で自分を鍛えていかなければならない。それでしか間に合わない。
むかし、たしかキン肉マンだったと思うが、その漫画である超人(たしかテリーマン・・・?違っていたらごめんなさい)が、試合中に頭突きをしたら額がわれて血が出た。
つまり額が弱かったのだが、何をおもったかその超人は、試合中にも係わらずコーナーポストに自ら頭突きをして額を鍛え、その場で弱点を克服してしまう、というシーンを見たことがある。
まさに、その行為そのものだ。
試合のなかで弱点は克服する。
正直、このオウム返し話法は、まどろっこしい。
こちらも面倒だが、それ以上に話し相手からしたら究極のウザさがあるはずだ。
でもゴメンよ、そんなこと構ってられる場合じゃないのよ。
非常事態なんで。すいません。
僕は心を鬼にしてオウム返し話法を続けた。
或いは、
「ヤンキー戦法」
というものもあった。
これは単純だが、ものすごく効き目のある作戦だ。
リスニングに役に立つ。
簡単だ。
相手の口元を、ヤンキーのようににらみつけるのだ。
口元を凝視するわけだ。
英語を話す人は口をダイナミックに使う。
THは舌を歯の間に挟む。
なんて、どれだけ口をダイナミックに使うんじゃ、おみゃーら、とぼそぼそと喋る日本語使いの僕からしたら衝撃的な口の使い方が英語にはある。
日本語がスピードスケートだとしたら、英語はフィギュアだ。浅田真央だ。華麗に飛び跳ねるのだ。蝶の舞なのだ。
目で楽しまない選択肢はない。
というか、目でも十分楽しめる。
いや、目でも十分情報を得ることができるのだ。
口元を是非じっと見てほしい。
派手に動かされているだろう。
そして、それをじっと見つめているだけで視覚情報も手伝いリスニング力は数割ましになったような気さえする。
授業のときは当然のように一番前の席に陣取った。
そして目をかっぽじって(本当にかっぽじったら危険だが)講師の口元を凝視した。
1mmの視覚情報さえ逃さない。なんてったって口の動きも含めた全体リスニングで補うためだ。
ただ、またまたこれも話し手からすると「なんだこの奇妙な小僧は、さっきからこっちにガン飛ばしてるぜ」と思われるかもしれないまたまたはた迷惑な勉強法だった。
これも涙を飲んで、ごめんよ~と僕はにらみつづけた。
更に、「You-know病」というのにも自らトライしてみた。
You knowとは、アメリカ人が英語を話すとき、たまに、「あのさ」みたいな感じで「you know」とさっと文章にはさむyou knowのことで、これが入ると少しでも英文が自然に聞こえる。
煙草をすうと会話の間が持てるような感覚に似た便利なアイテムでyou knowを使えると会話の間が持てる。ただ、これは意図して使わないとなかなか出てこないのだ。だから、あえてyou knowを無理やりはさんで会話をしてみる。
しかし、これは当面のあいだyou knowに依存しすぎてしまう怖さもある。余りに便利すぎて息継ぎというかフレーズを考えるためというかYou knowを一文で3回も4回も、下手したら5回も6回も言ってしまうのだ。
I…you know…went….you know you know…..to…you know…..yesterday…you know.
と、もうこれはまさにYou knowの祭り。You knowの祭典。You knowの夢の国。You knowの大逆襲。
なんでもいい。
ただ、何しろまたまた迷惑なのは聞かされている方だ。
それに遠慮している暇はなかった。
因みにyou knowのほかにlet’s sayを使う小数派もいた。
いずれにせよ、これは1週間くらいで収まったのだが。。
一事が万事、こんな感じだ。
いいと思ったことは何でもやった。直ぐにやった。その場からやった。
多少周りに迷惑をかけても仕方がないと心を鬼にして精進した。
恥ずかしい、とか、どうでもよかった。
なんせ生き残らなければならないのだから。
僕にとっての英語は、勉強の対象でもなんでもない、単なる生き残りをかけたサバイバルゲームのツールに過ぎなかった。英語を勉強している感覚は消えていた。これは生き残りをかけた戦いなのだった。
短期集中英会話合宿のイングリッシュブートキャンプという英語のクラスをやっていて思うことがあります。多くの方が、ネイティブスピーカーのように流暢に、たおやかに、自然に英語を喋ることを目指しています。
もっと言うと「スマート」な英語スピーカーを目指しています。
最終的には、そこをゴールにしたいのですが、ただ、最初は、もっと泥臭くていいのではないかと感じています。
日本で生まれ育ったわれわれが、26文字の記号だけで記されている外国語で会話をするんです。
普段運動していない人がいきなりフルマラソンに出るくらい異常事態だと思ってしまっていいかとさえ思います。
であれば、プロのランナ-のようにフォームよろしく格好良く流れるように走ることを目指すよりは、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになろうが、ひざにテーピングしまくろうが、途中でマッサージしてもらおうが、栄養ドリンクのみまくろうが、何とか必死にしがみついていく。
異常事態なのにナリフリ構ってられるか、ということでいいのではないか。格好を気にしてリタイアするより、みっともなくても完走したいわけです。
なんせ素人だし、なんせ異常事態なんですから。
英会話も異常事態と捕らえ、泥臭く、貪欲に。
大体、コミュニケーションって人と人との生のやり取りです。
きれいな言い回しだけ覚えれば、相手を動かせるわけではありません。
だから全身全霊で表現していいのだと思います。
一番大切なのは、自分のなかで「異常事態宣言」をしてしまうことかもしれません。
英会話って異常事態なんだから、そりゃ、全身全霊でいかせていただきますよ。
多少おおげさな感じになるかもしれませんが、ヨロシク。
そこから新たな英会話が始まるのではないかと思います。
つづく